回れる間取り
回れる間取りは、その良い点悪い点をしっかりと理解した上で取り入れることがとても大切です。ここでは、回れる間取りがどうして使いやすいのか・・・一方、どのようなデメリットがあるのか・・・それらをわかりやすく図で解説します。

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回遊性があると動きやすく使いやすい

住戸内で頻繁に行き来する部分、つまりキッチン・洗濯室といった水まわりなどを中心に、回りやすさ、動線を考えて間取りを決めるととても使いやすくなります。(キッチン・水回りを使いやすくするポイントについてはこちらもご参考ください。)

長い年月、毎日そこで暮らし続けることを想像し、移動負担が少ないかどうか・・・使い勝手が良い計画かどうかをじっくり考えましょう。

一方、これを優先することで生じる副作用もあります。使いやすさと、デメリット・・・回れる間取りの利点・反作用を紹介します。

回れる間取りのメリット・デメリット比較

回れる間取り、つまり、1室に2か所以上の出入り口がある部屋同士をつなげると2つの方向に移動することができるため、いわゆるショートカット(近道)ができるというメリットがあります。

また、家族が1か所に集中する場合や、誰かが物の出し入れや掃除などの作業をしていて、すれちがいができないといった場合の回り道にもなり、住戸内での移動がスムーズになります。

特に家事を担う主婦は、キッチンを中心に1日中動き回ることになりますから、キッチン周辺が回れるかどうかは、移動負担を大きく左右し、毎日の家事労働の疲労やストレスの蓄積にも影響します。

それでは、回れる間取りと回れない間取りの違いを図で見てみましょう。まずは、回れる間取りから。

回れる間取りの例

回遊性のある間取り

住戸内各所で回ることができる間取りの例です。19坪の2LDK平屋建て、居室が少し手狭ですが、その分、動きやすさに重点が置かれた計画の例です。

では、具体的にこの計画の良い点、悪い点を見てみましょう。

回れる間取りのメリット・デメリット

回遊性のある間取りのメリットデメリット

回れる間取りのメリット
  • 室に新たな機能を追加できる(キッチン横の納戸がパントリーとしても使える)
    特定の室からのアクセスが増えることで、新たな用途としての機能を付与できます。図の例では、玄関横の納戸はベビーカー、傘、三輪車、ほうきといった屋外用品の収納だけでなく、キッチンに付属するパントリー(食品庫)としても利用が可能となります。玄関から直接、長期常温保存できる食品を搬入でき、キッチンからとりだせるため、非常に便利です。
  • 近道ができる(洋室(4.7畳)からトイレ・浴室が近い)
    出入り口ひとつでショートカットができます。図の例では、洋室から最短でトイレ・浴室にアクセスすることができるため、夜間の頻回なトイレ通いの負担軽減、高齢者介護による排便・入浴時の負担を軽減といった効果を生み出すことができます。
  • マルチアクセスが可能(キッチンから各室へのアクセスが良い)
    出入り口の数が多いため多方面へのアクセスが可能となります。図の例では、キッチンを中心に放射状に各室へ直接アクセスでき、住戸内移動がスムーズにできるため、家事負担が軽減されます。
  • 逃げ道、迂回の機能(洋室(5畳)のプライバシー性を操作できる)
    2方向の動線をつくれるため逃げ道、迂回が可能となり、プライバシー性を持たせたり、動線交錯を緩和できます。
    図の例では、洋室はリビングを介さずに玄関を行き来できるため、家族の属性によりプライバシー性を確保したいという場合に効果を発揮します。

やはり、回れる間取り(2方向アクセス)による用途の付加、近道・逃げ道効果は大きな機能性、使いやすさをもたらしてくれます。面積、資金に余裕があれば、できる限り取り入れたい手法です。

しかし、一方で以下のようなデメリットもあるのです。

回れる間取りのデメリット
  • 坪数が嵩む
    出入り口、通路部分が多くなり、その分坪数を押し上げます。
  • 家具配置に制約が生じる
    出入り口の前後は家具の配置ができなくなります。出入り口が多くなることで、家具配置などの有効利用スペースが減少することになります。
  • 耐震性が減少する
    出入り口が多くなることで、筋かいや耐力壁などの耐震要素の配置ができなくなります。もちろん、設計者により全体として耐震基準をクリアするよう設計されますが、耐震性に余裕を持たせにくくなるということです。

長所と短所は表裏一体

以上のように、使いやすさ、動きやすさと引き換えに失うものもあるということを頭に入れて計画することが大切なんですね・・・。実は、間取りというのは、常にこのような長短が表裏一体となっており、「あっち立てればこっち立たず」の関係にあります。

プロである設計者は、頭の中で両者のバランスをとりながら施主のニーズをできる限りかなえようと知恵を絞って設計します。この長所・短所のバランスをいかに取るかが間取りの難しいところなんですね。

施主もこの辺のポイントをあらかじめ押さえておくと、設計作業を円滑に進めやすくなるでしょう。何よりも施主の後悔を防ぐことにつながります。間取りは後で直せませんので・・・。

では、次に、この間取りを回れなくすると、どういうことになるのか見てみましょう。

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回れない間取りにしてみるとどうなるか・・そのデメリット

回れない間取りの特徴をみてみましょう。先ほどの間取り図において、出入り口を計4か所封鎖してみました。(移動経路の床面積が不要になるため、それに伴い間取りを一部修正をしています。)

これにより、いわゆりショートカット(近道)ができない回れない間取りとなりました。こ場合のメリットデメリットを図で見てみましょう。

回れない間取図(前図の出入り口を塞ぎ一部を修正)

回れない間取りにした場合のメリットデメリット

回れない間取りのメリット
  • 坪数を削減できる、面積の有効利用ができる
    移動経路の床面積が削減できるため、その分の床面積を削減できる、または、他の居住空間や、収納などに有効利用できます。上図の例では約2畳分(1坪)相当の通路床面積の削減効果があります。
  • 家具の配置スペースが生まれる
    出入り口の前後は家具の配置ができないため、この出入り口がなくなることで、家具を有効に配置できるようになります。
  • 耐震性が向上する
    出入り口をやめた分、筋かいや耐力壁などの耐震要素の配置ができるようになります。
    耐震壁のバランス向上、耐力壁量に余裕を持たせることができるため、大地震時の損傷や、揺れの抑制効果を高めることができます。
回れない間取りのデメリット
  • 使いづらい、移動が負担
    近道ができない、全てが往復移動となり、使い勝手が悪い。

以上のように、回れない間取りは使い勝手が悪くなるというデメリットがあるものの、ただ悪者というわけではなく、見過ごせないメリットもあるのです。

やはり、住宅の取得においては、経済性は見過せない要素です。上図の例では畳1畳分の床面積の削減+1畳分の収納スペース増加で、合計2畳(約1坪)分の通路面積を削減できたことになります。

※上図は、回れる間取りとの相対比較をしやすくするため、プランを大きく変えず、出入り口の削除と間取りの一部変更のみを行っています。(現実のプランニングでは、このような間取りにせず、プランを基本的に見直し、使いづらさの解消を図ることになるでしょう。)
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まとめ 回れる間取りと回れない間取りの違い

以上のように、回れる間取りと回れない間取りはその長所・短所が相反関係にあり、押せばどこかが飛び出るといった、いいとこどりができない仕組みになっていることがわかります。

簡単にまとめるとこういうことです。
「回れる間取りは使いやすいが、不経済に作用する。一方、回れない間取りは、使いづらさはあるが経済的。」

坪数が増えれば、その分の建設コストだけではなく、水光熱費、維持管理清掃費、ローン利息、固定資産税を生涯にわたって負担することになります。このような、目に見えにくい負担も意識して間取りを考えないといけません・・・。

発注意図を明確に伝えましょう

移動経路を使い勝手のために必要なものととらえるか、それとも、コスト上無駄ととらえるかは本来、施主の判断によるところです。しかし全てを業者さんに任せきっていると、このあたりの背景が見えないまま話が進んでしまう場合があります。

背景を説明し、どちらを優先するか施主に判断の機会を与えてくれる設計者ならいいのですが、そうでなければ、自分でそこに気づいて、コストを優先するのかどうかなどを、あらかじめ伝えることが大切になります。(経済性を優先したいという希望を伝えれば、設計者はある程度機能を殺し、コンパクトにまとめる経済設計を優先して図面を描いてくれるでしょう。)

いずれにしても、施主のイメージがある程度定まっている方が円滑に計画は進みます。その他、こちらの回れる間取り例も参考にアイデアを煮詰めていってください。→回れる間取り例一覧